解熱鎮痛消炎剤として，新しいタイプの貼り薬が発売されました．一見湿布薬の様に見えますが，従来の貼付薬とは異なります．胸やお腹など貼りやすい処に貼れば，腰や背中，肩などの1人では貼りづらい処の痛みに，しかも同時に効いてくれるのです．内服薬と異なり１日中効くので，睡眠中や起床時の痛みも楽になります．さらに胃にも優しく，痒みが少なくい長所を持ちます．今回はそんな新しいタイプの鎮痛剤をご紹介します．
目次 Table of Contents
１．はじめに
２．痛み止めの短所
３．痛み止めの新しい武器，貼付剤
４．この貼付剤のいいところ
５．驚きの経験
６．使用時の注意点
７．まとめ
１．はじめに
家庭でも学校で，職場でもスポーツでも欠かせないクスリ，鎮痛剤．
その多くはいわゆる解熱鎮痛消炎剤．
その活躍の場は広く，おそらく誰もが１度は使用するクスリ，ではないでしょうか．
頭が痛いとき，ケガをしたとき，捻挫をしたとき，火傷をしたとき．歯が痛いとき，
病院で処置を受けたとき，手術を受けたとき，などなど．
剤型も，飲み薬では錠剤，カプセル，粉薬，シロップ．
他にも塗り薬，貼り薬，坐剤，注射と，まさにさまざま．
それぞれの利点を活用し使用され，痛みが軽減される事となります．
厚生労働省の2022年国民生活基礎調査の概況の「世帯員の健康状況」によれば，自覚症状（有訴率）は
| 自覚症状 | １位 | ２位 | ３位 |
| 女性 | 腰痛 | 肩こり | 手脚の関節が痛む |
| 男性 | 腰痛 | 肩こり | 頻尿 |
となっています．
男女とも腰痛が１位で，関節痛を含めれば痛みが半分を占めてるんですね．
２．痛み止めの短所
されど，当然にして短所の無いものなどあり得ません．
ただここで述べる短所とは，副作用とは異なりますので，少々ご注意を．
ではその短所，３つ．
（イ） 原因は治らない
（ロ） 一人では難しい事がある
（ハ） 朝には効果が切れる
では説明を
（イ） 原因は治らない
最大の短所でしょうか．要は根本的な治療薬ではない，ということです．
鎮痛薬で虫歯は治りません．骨折も，捻挫も，火傷も治りません．
原因を治すには虫歯は歯科医へ，骨折・捻挫は整形外科へ，火傷は形成外科へ．
ただ軽い怪我や捻挫，火傷ならば，痛み止めを使っている間に，自己の治癒力で回復します．
（ロ） 一人では難しい事がある
肩や背中，腰が痛む時，シップ（貼付剤）をきちんと貼るのはなかなかやっかい．
そもそも見えないし，片手しか使えなかったり，すぐ皺になったり剥がれたり．
従って，貼って貰える誰かが必要となります．
塗り薬も，塗る範囲が広かったり，手の届きにくい背中だとやはり大変ですよね．
（ハ） 朝には効果が切れる
これは特に内服薬にみられます．毎食後の内服だと，
朝は０６:３０頃，お昼は１２:３０頃．夕は１８:３０頃．
これらの時間帯に服用のタイミングが多いでしょうか．
日中は６時間毎の服用なので，しっかりと効いてくれます．
問題は夜．眠っている間にその効果は徐々に減弱．
腰が辛くて服用しているのに朝，目が醒める頃には効果は無し．
ベッドから起きるのが辛い．洗面で屈むのがきつい．着替えが一苦労．
案外と厄介な，時間の壁を持っているのです．
これら３つの短所の他にも，貼り薬や塗り薬はその場所にしか効かないとか．
胃潰瘍を考えると空腹時には飲めないとか，内服には水分が必要とか，とかとか．
３．痛み止めの新しい武器，貼付剤
２０２１年５月２1日．解熱鎮痛消炎剤としては 新しいタイプの貼り薬 が発売されました．
商品名はジクトル®テープ 75mg．一般名はジクロフェナク ナトリウム 経皮吸収型製剤．
製造・販売は貼付薬に強い久光製薬．価格は１枚約１５６円．
１日２枚まで使用可能．なので毎日２枚貼りかえたとして，かかる１月の費用は
１５６円 × ２枚 × ２８日（４週間）＝ ８千７２６円
保険で３割負担としても，４週間で約２千６１７円．決して安くはありませんね．
（註：がん性疼痛に使う時は，１日３枚まで使用できます）
一般名（日本医薬品一般的名称）とは、国によって医薬物質に与えられ，薬局方に記載されている非専売名である．ちょい難しいですね．
例えれば，商品名がコカ・コーラ®，ペプシコーラ®とすれば，一般名は「コーラ」，こんな喩えでよろしいでしょうか．
以前からとてもよく使用される痛み止めに，ジクロフェナクという解熱鎮痛消炎剤があります．ケガや手術の痛みでもしっかり効いてくれる優れもの．なので今もなおよく用いられている痛み止め．そのクスリが貼り薬となったのです．
この商品名，私の勝手な推察です．
成分ジクロフェナクの「ジク」，痛みを取るの「トル」，のテープなので，ジクトルテープと名付けられた，と思っています．
「ちょっと待った．貼り薬なんてとうの昔からあるでしょ！ 何を今さら？」
確かに，普通の湿布薬としてジクロフェナク･ナトリウム･テープという製剤もあります．
けれど普通の貼り薬では無いから，ご紹介の意味，意義，役目があるのです．
参考までに，久光製薬より判り易い患者・ご家族向けの解説書が提供されています．
ぜひご覧ください．
「ジクトルテープ75mgをお使いになる患者さん・ご家族へ」
４．この貼付剤のいいところ
では何が画期的かと言えば，何処に貼っても効く！貼り薬なのです．
従来の貼り薬は痛む場所に貼る必要ありました．人によっては何カ所も．
けれどこの貼り薬は貼りやすい場所に貼れば，いろんな場所の痛みにも同時に効くのです．
これが「いいところの１つ目」．
胸やお腹に貼っても，腰や膝，肩に効くのです．痛むとこ全てに貼る必要が無くなったのです．
「なんじゃ，こりゃ，楽ちん．」という声が聞こえそうです．
皆さんの入浴は夕方でしょうか，夜でしょうか．
貼付薬ですから，普通は入浴前に剥がし，入浴後に貼る．
そんな毎日の繰り返しが多いでしょうか．
貼り薬ですから，そのまま長〜く１日中効いてくれます．
なので
せっかく寝付けたのに，寝返りごとに痛みで目が醒めて，寝た気がしない．
トイレに起きた時が痛くてたまらん．などという夜間痛にも効果的．
さらに
以前は朝に布団から出るのが辛くて辛くて．
顔を洗うのに前屈みがきつい，着替えが一苦労．
今もまだまだ朝食を作ってくれるのは，女性が圧倒的でしょうか．
いつもありがとうございます．
そんな女性が痛み止めを飲むのはようやく朝食後．これでは大変．
けれど朝起きても楽ならば，朝食づくりも楽になることでしょう．
なにより，痛みを気にせずにできる食事はとても理想的．
これが「いいところの２つ目」．
起きる，歩く，座る，腕を挙げる，肘を曲げる，何かを掴む．
という日常的，基本的な動作．
痛み止めってこの解熱鎮痛消炎剤の他にも多くの種類があります．
けど，これら基本動作に特に有効なのが，解熱消炎鎮痛剤．
じっとしている時の痛みでは無く，動いた時の「体動時痛」．
これが減れば楽になる生活．億劫で無くなるちょっとした仕草．
これが「いいところ３つ目」．
他にも
従来の貼り薬は，いつも同じ場所に貼らねばなりません．
すると皮膚の弱い方は次第に皮膚に炎症が起き，とても痒くなります．
皆さんもご経験，お有りではないでしょうか．いわゆる「かぶれ」．
医学用語では接触性皮膚炎と呼びますが，私もすごく痒くなった経験を持ちます．
この痒みが酷いと，痛いのに張るのが辛い，悲しいジレンマ．
残念ながらこのジクトル®テープにも痒み，という副作用があります．
ですがこの副作用，場所を変えて貼ることで対応出来るのとの由．
湿布が痒かった方，朗報です．
もう一つの特徴．それは胃に優しい，という点．．
貼り始め，お薬はゆっくり吸収され，痛みを軽くするという効果を発揮後，少しずつ代謝・排泄されます．なので胃潰瘍の副作用が少ないと考えられています．私も特に胃薬は出してはおりません．
（そもそも他の理由，逆流性食道炎とかで胃保護剤を服用中の方も多いですしね）
５．驚きの経験
私がこのジクトル®テープのまだ使用初診者だった頃，その効果にとても驚いた経験があります．
ご自宅への退院を渇望された，とある「がん」の患者さん．
強いの鎮痛剤の効果でようやく痛み和らぎ．どうにか叶った退院．
そのような中で特に心配せずに向かった初の訪問．
ちょうど先着していた訪問看護師が，オムツ交換をされておりました．
しかし患者さんの顔は激痛でゆがみ，看護師が繰り返す「ゴメンね」「ゴメンね」．
あれ？ 話が違う．診療情報提供書と違う，ケアマネージャーの情報と違う．
このオムツ交換により，これからの苦難を案ずる，強い不安に襲われたパートナーの表情．
患者さんやご家族から詳しく伺ったところ，強い鎮痛剤で取れた痛み，それは安静時痛．
つまり動かなければ痛くない．痛まない．我慢の必要が無い．
ところが患者さんが耐えていたオムツ替えの激痛は，動かされ時の痛み，つまり体動時痛だったのです．
だとしてでもです．１日に数回は，オムツを交換せねばなりません．
訪問入浴にしても週に１度とはいえ，ベッドから降ろし身体を動かさねばなりません．
さて困った．
すでに強い痛み止めが使用されている今，使える手立てはかなり限定的．
それでも痛みを取らなければ・・・パートナーのご意見では，家での看病は絶対に無理なのだと．
一方，患者さんは自宅が恋しくて恋しくて，やっとの思いで退院してきたばかり．
これぞまさしく，イタ挟み．(^_^;;;;;
「今夜は一先ず，貼り薬をもう１枚使いましょう．この貼り薬は１日２枚までは使えますから．」
翌日，訪問看護師から届いた知らせは驚きそのものでした．
２枚に増量してから体動時痛が激減し，オムツ交換がとても楽になったのだと．
そしてその様子を見ていたパートナーには，とても安堵した笑みが溢れたとか．
それからの訪問診療，とても気楽に伺えるようになりました．
以上が「驚きの経験」です．
もちろんどのような方にも，今回の様に効果があるとは限りません．
けれどこれは使える，新たな武器となる，と確信できた経験でした．
６．使用時の注意点
この新しいタイプの貼り薬．胃潰瘍は少ない，と書きました．
そして効くからといって何枚も貼るのは御法度，絶対にしないでください．
シップはいつもたくさん，という猛者も少なくはありません．
実はすごく良くない事なのです．なのでこれも１日２枚まで．
また痒くなるいう方．これもストレスですよね．
貼る場所を毎回変える事で簡単に解決出来る事が多いと聴きます．
少し工夫してみましょう．
さらにこのテープ，効くんだけど直ぐに剥がれちゃって・・・
衣服の下で剥がれ始め，丸まるテープ．これも結構ストレス．
無駄に散ってしまう集中力．思考が途切れ，進まぬ作業．
そう，大きな欠点のひとつは剥がれやすいこと．
なので関節の周囲や汗をかきやすい場所は避けましょう．
なお貼る場所は，下の図を参考として下さい．
これはパンフにもなっているので医療機関，調剤薬局で貰える事も多いですよ．
もちろん私の外来にも．
それでも痒い，剥がれ易いという際には，直ぐに別な方法を思案します．
我慢せず，遠慮せず気軽にお申し出を．
７．まとめ
「ジクトル®テープ」は，従来の鎮痛剤の短所を補ってくれる，とても良い長所を持ちます．
長所
１．一人で貼れる．腰や背中，肩が痛くても，貼りやすい場所に貼れる．
２．朝もも効いてくれる．大抵入浴時に張り替えます．そして１日効きます．なので就寝中や，起床時の痛みが軽減します．
３．安静時痛のみならず，動いた時に痛み体動時痛にも効果があります．
一方，短所は
１．他の鎮痛剤と同じく，原因療法ではありません．
２．肌のデリケートな方ですと，痒みで使用を断念せねばなりません．
３．関節周囲や汗をかきやすい場所にはると，どうしても剥がれやすいでしょう．
以上を踏まえ，何らかの痛みに悩み・耐え続けている方はぜひかかりつけ医にご相談を．
え？ 話しにくい？ 相談しづらい？ それなら
親族の看護師さん 知り合いの看護師さん 担当の看護師さん
クスリの事だから
かかりつけの薬剤師さん へたな医者より薬剤師さんかな
兎にも角にもその痛みが今も辛いなら，ケアマネジャーさんも親身．
迷わず我慢せず遠慮せず，誰かに何処かにご相談を，ぜひ！
この度も最後までお読み頂きありがとうございます．
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