小生が行いたい麻酔はまるでヒコーキの様.離陸と着陸に長い時間をかけ,手術を受けた事がまるで判らないような全身麻酔.麻酔から覚醒した患者に苦痛は無く,さらには手術の記憶すらも無く,有るのは安楽のみ.そんな全身麻酔をヒコーキ麻酔に喩えました.
目次 Table of Contents
1.衝撃の医療事故
2.取り違え対策
3.あっと言う間の術後
4.熟睡の夜
5.ヒコーキ麻酔
初稿は2012年6月19日アメーバブログに掲載
13年の時を経て改訂
イラストは原則無料利用可能な「いらすとや」より
1.衝撃の医療事故
1999年初頭に発生した 日本全体を震撼させた事故
某医学部附属病院 その手術室
取り違えられた2名の患者
そして受けてしまった本来とは異なる手術
ここで詳細は割愛するも これを機に様々な改善策
中でも,眠けのため歩行に不安の出る「前投薬」の廃止
また ナースの身体的負担軽減もあってか
またたく間に全国に普及 と記憶
かくして手術室では患者の安楽よりも安全を優先
医療システムの欠陥なのに
あおりを受けたのは・・・患者でした

麻酔の『前投薬』とは手術を受ける患者のため 手術室に入る前に処方するお薬です
手術への不安や緊張を和らげたり 麻酔の効果が増えることを目的としています

2.取り違え対策
今では患者の取り違え防止のため
手術室入口で 名前 血液型 生年月日
の確認 これがスタンダード
前投薬の眠けは 返答の正確性にも影響
よって前投薬の廃止は標準 と小生の認識
すると 手術室に入ったとたんの患者
表情は固くひきつり あるいは苦笑い
血圧180もざら 時にはオーバー200
よく脳卒中にならないものと 1人で不安
なので前投薬にこだわります 小生は

名札の付いた病室の 名札の付いたベッドから
「〇△さん,手術室へゆく時間ですよ」
移動は車椅子だから安全 ナースが押すので安心
手術室に来て頂いたら まず眼を見ての挨拶
眠くて上等 顔を上げて頂ければもう充分
そのため前日の病棟 必ず訪れる術前診察
さらに
リストバンドに 名前・生年月日・血液型
ナースが読み上げ 関係者全員での再確認
これで取り違える確率は万分の一 以下

患者さんに挨拶する際 マスクを外す小生
それは不衛生と 不満げなナースもたまに
けど昨日の医者だと気付いて頂く安心材料
ほんの数秒の挨拶はどうかご容赦 ご容赦
かくの如く睡眠導入剤からが小生の前投薬
だって緊張したら眠られないもの が為に
10時間以上も前から始まる心身への準備
病室で目覚め遂に始まったカウントダウン
午後の手術まで残念ながら 飲まず食わず
そして刻一刻と増えていく鼓動 ドキドキ
なので前投薬 朝もお昼にもしっかり追加
「転倒注意」とお願いしつつ快適ウトウト
呼び起こすナースの声さえ術後は夢の一部


3.あっと言う間の術後
さてさて 仮に時間のかかった大きな手術だったとしても
全身麻酔での感覚はあっと言う間
あれ え? もう終わり? いわゆる目は点
全国標準での覚醒は
くっきり・しっかり・すっきり・はっきり
麻酔薬を上手に使えば 特に難しいことでもなし
けど 時に目覚めるまで時間がかかることも・・・
大声で名前を叫んだり 激しく肩を叩いたり
さらには痛み刺激でグリグリしたり・・・
大きな病院の外科の先生にもやられたこと あったな〜 悲し
力ずくでの覚醒 嫌いです 大嫌いです
いいじゃないですかウトウトだって
傷の痛みだけではないですよね 手術後の苦痛って
マスクの暑苦しさ 腰痛 おしっこの管の強烈違和感
寝返り打てぬ身の置き場の無さ 眠られぬ辛さ
傷の痛みを取るのは簡単 なのに他の苦痛にはみな無関心
麻酔科医も関心薄く 気にもせず 知らぬ間の我慢の強要
小生は嫌です 小生自身が嫌なのです 患者さんの我慢

なので麻酔から覚醒したあと 鎮静と鎮痛効果を残します
鎮静・鎮痛の効果のみを2〜3割残します なので
病棟に戻った患者さん まだまだ眠い 軽くウトウト
小生としては最高の「術後鎮静良好」
他方 看護記録にはしばしば「半覚醒」との記録
ご家族も「まだ醒めていない」と勘違いしがち
けど小生は気にしません 麻酔からは醒めてるし
なにせナースやご家族より 患者さんの安楽が最優先
でしょ! 何か異論 反論 あります?
『鎮静』 安全な鎮静のためのプラクティカルガイド ー 作成 公益社団法人日本麻酔科学会 ー より
①最小鎮静 ②中等度鎮静 ③深鎮静 ④全身麻酔 4つのレベルに分類
これらの中で目指すは ①最小鎮静 と ②中等度鎮静
呼吸 血圧 心拍数に課題の無い事を確認しつつ 麻酔薬の鎮静効果のみを残し 呼び掛けや簡単な質問に応える事には容易な状態 苦痛が何一つ無い状態だからこそ 気持ちの良いお昼寝が出来るのです
かなり固い表現だと
①最小鎮静 :気道,自発呼吸,心血管機能に影響せず呼び掛けに正常に反応するレベル
②中等度鎮静:呼び掛け,触刺激で合目的的に反応し,気道が介入不要で自発呼吸,心血管機能が通常は維持されるレベル

4.熟睡の夜
ゆっくり時間をかけ消え行く 鎮静効果
なので夜8時になると始まる 睡眠への注射薬
この注射薬 効果は絶大 そして安全
睡眠導入剤は その効果 言い換えれば寝付きのみ
2〜3時間後の覚醒が多い事は自明
一方で注射薬は 点滴が続く限り睡眠を維持
しかも万が一何か有っても いつでも止められる点滴
いわゆるセーフティガード ね 安全 そして安心
夜 眠られないのは辛い 痛くなくても辛い
夜明けが遅い冬はなおさら 何度見ても進まない時計
現時点ではまだ一部の医療機関のみなれど
眠る点滴 出します 必ず・・・出してます

熟睡できた患者さんの朝 表情は明るく 余裕も綽々
耐える必要無かったから 疲れも無く お肌もプルルン
すでに座っていたり 立ち姿で歯磨きも
何よりの話 目指しているのがこれ 苦痛ゼロの世界
痛いのに弱い鎮痛剤しか出されず 眠られぬ夜を諦め
おしっこの管も抜かれ トイレへの歩行に脂汗
先日の患者 痛むからと微動だにせずにいたのだと
そんな世界を知りたくは無い小生 工夫を続けます
患者や家族に正しい情報を伝えつつ

5.ヒコーキ麻酔
ここでやっと閑話休題

はっきりした状態で手術室 そしていきなりの麻酔
醒めるのも くっきり・しっかり・すっきり・はっきり
例えればヘリコプター
どこにいても真っ直ぐ離陸 好きな時に真っ直ぐ着陸
他方
小生の麻酔法をあえて例えれば ヒコーキの様と云われたい

前投薬で前夜からの長い長い滑走路
薬の力を上手に借り 手術室へ入る時もウトウト
長い時間をかけた離陸は ゆっくり ゆっくり
全身麻酔という水平飛行が終わると いざ覚醒という着陸へ
ここでもゆっくり ゆっくり下がる高度
着陸した後も 長く長く走り続ける滑走路
あまりにゆっくりすぎて 着陸に気づけない乗客(患者)
もとより記憶にすらない離陸(前投薬)
気付いたら既に地上 飛んできたことすら夢の中
急激な変化には ついつい反応も急激
昼寝を途中で起こされた時の 不機嫌となるがごとく
だからこそ
自然な目覚め 残るは熟睡感 夢の記憶 時間の飛躍

どうしてここに横たわっているの
確か今日,これから手術のはず
え? まさか手術は終わっているの
一体いつ 私は手術を受けたのだろう
時計の6時は夕方? 明け方?
ここでの苦痛は存在してもほんのわずか
そんな そんなヒコーキ麻酔が大好きなのです