〜Table of Contents〜
1.序文
2.過去
3.現在
4.将来
5.苦痛
6.譫妄
7.鎮静
8.纏め
(気付いたら思い切り長文となっていました.ゴメンナサイ.)
いつも貴重な意見・情報の提供や,処置の確認,間違いの指摘などで助けられています.
ありがとうございます.
さてカルテの術後看護記録,「半覚醒」と記載されることを散見します.
特に私が担当した症例で.
実は以前より,少し違和感を感じ続けています.
何故だろうかと,私の考えを纏めてみました.
多くの皆さんに読んで頂けること,密かに期待します.
さて冒頭で結論.
それは,「半覚醒」の状態を「鎮静良好」あるいは「良好鎮静」とイメージして頂きたい,ということなのです.
さてどのようなイメージなのか,時間の流れを利用しお話させてください,
ではしばしの時間をお借りします.
通常の全身麻酔において「覚醒」はとても重要視されています.
何故か?,かつて,手術室から病棟へ戻った患者,部屋で『呼吸が止まる』という怖ろしい危険があったのです.
気管挿管や手術に必要な筋弛緩薬.呼吸を止める筋弛緩薬,その効果が病棟で再燃し,再び呼吸が止まり,意識はあるのに息のできないという地獄.しかも主治医は次の手術に入っていて病棟には不在.
当然にして緊急対応が求められます.
しかし以前,コードブルーやハリーコールのような緊急システムはありませんでした.
今では想像もできないような,怖ろいしい時代があったのです.
なので「正しい覚醒」は命最優先が目的の結果でした.何を差し置いてでも,です.
幸いにして現在,呼吸停止ような危険性はほぼ無くなったと思われます.
2010年4月,呼吸を止める筋弛緩薬の効果を打ち消す,新しい薬剤が発売されました.
写真参照:MSD製薬
ブリディオン®(一般名:スガマデクス)という名の注射薬です.
その効果は目覚ましく,病棟で筋弛緩薬の効果が再燃する恐ろしさ,呼吸が止まる恐ろしさは,これでほぼ 払拭 されたのです.
技術の進歩はまこと有り難いもの.
これで「安心」,のみならず,「安楽」の追求も一段バージョンアップされました.
話は少し逸れますが,今後に向け,厚生労働省の考えは変わりません.
それは更なる入院日数の短縮.そう感じています.
厚生労働省の狙い.医療費削減に向けた不変の政策.
なのでもっとハッキリクッキリの覚醒.
そう,そのまま帰宅さえできるように.
高騰を続ける医療費を削減するためには致し方ないこと.
健康を顧みない高齢者も,さらに増え続けるのですから.
肺塞栓症を防ぐためにも早期の離床は欠かせません.
そこで必要なのはほぼ完全に近い「鎮痛」,と考えます.
されどこの鎮痛,創の痛みだけではないと,私は考え続けています.
腰痛,外尿道口痛,尿管ステント痛,さらに重要なのは嘔気・嘔吐.
これらをきちんと除いてあげなければ,帰宅を望む患者などいないでしょう.
苦痛がなくても,不安だけで帰宅拒否されます.
幸いにして,現状まだ極端な日帰り手術は求められておりません.なので心配はまだ先延ばしできそうです.
さてここで漸く『鎮静』です.前振りが長く申し訳無いです.
辞書大辞林で「鎮静」とは
「騒ぎや興奮した気持ちなどをしずめ落ちつかせること.また,しずまること」
とあります.
病棟で起きる「騒ぎや興奮した気持ち」,その原因はズバリ「苦痛」と考えています.創の痛みだけではありません.
ここでの苦痛とは「創の痛み」と「何らかの苦しさ」のいづれか,あるいは両者.
さて恐縮ですが私の仮説では・・・
不穏,せん妄と呼ばれる高齢者の行動,
仮に苦痛が無いのであれば,譫妄はほとんど起きないものと考えています.
苦痛無きならば,点滴を抜く必要も,バルーンを抜く必要も,ベッドから降りる必要も無い.
創の痛みが無かったとしても,何らかの苦しさがあればそこから逃れようとします.
しかも必死に!
「動かないで,危ないから」と何度繰り返しても,苦しさは消えません.
だって逃げたいのです.
「管が入ってるからオシッコは大丈夫ですよ」と呪文のように唱えても,尿意が消えることはありません.
私が考えるこれら苦痛の最大は,まさにこの尿意,言い換えれば膀胱違和感.
柵を乗り越えてでもトイレへ往きたいのです.耐えられないのだから必死です.
稀に,一体何が起きたのか,ベッド付近に抜かれ捨てられたバルーン,膨らんだままのバルーン.
これも,火事場の馬鹿力の一例なのでしょう.
また寝返りを打てない事による腰痛も重大.創があろうが無かろうが全力で横を向きます.しかももの凄い力なので抑えきれません.
他にも,
酸素マスク,点滴ライン,血圧計,心電図,パルスオキシメーター,ドレーン,硬膜外・IVA-PCインフューザー,バルーンカテーテル,フットポンプ.
狭いベッドに身の置き場なんて有りません.無理に動けば痛む創,モニターの外れを報せるアラーム.
眠られない夜,ただ長い夜.
隣人のイビキ.脚を締め付けるポンプ.鳴り続くアラーム.空調の雑音.遠くから響く笑い声.
特に冬は最悪.
暗闇しか映さない窓.完全に止まった時間,見たくてもどこにも無い時計.
訪室してくれた看護師に訴えたくても,あっと言う間に次の部屋.
ICUシンドローム,集中治療後シンドローム
例えばふっと落ちた昼寝の寝起き直後,状況を把握できないあの一瞬.
目の前にあるもの,点滴のようだとは判る.けどなぜそこにあるのか理解出来ない.
見覚えのない天井.ベッドで寝ているようだとは判る.でもどこの部屋かは判らない.
動けば痛むのに,何が起きたか判らない.だから,その先も見えない.
何かがおかしい.俺はヤバいのか.まさかこのままだと死ぬのか.膨らむ不安,恐怖.
マズイ,逃げねば.母ちゃんのとこに急がねば.
でもなんだ,この身体にまとわりつくものは.邪魔でしようが無い.
仕方無く力ずくで引き剥がす.見えるものは全て引き抜く.
多少は痛むが急がなきゃ.今死にたくない.母ちゃんとこへ急がなきゃ.
私の思うせん妄とは,このような事かと思うのです.
だからなおのこと,苦痛は取り除かねばならない,そう思うのです.
たった一晩とはいえ,苦痛の一晩.
もしここで創が痛めばさらに,地獄の一夜.
なので,私は鎮静を重視します.全身麻酔よりも重視します.
だって,麻酔で眠ってるの間は苦痛の全く無い空間.別世界.
感冒薬や花粉症薬,抗てんかん薬,一部の鎮痛薬.
それらが眠気を持つように,鎮静薬もその特徴として持つ眠気.
その眠気まで利用して,理想的な鎮静を目指しています.
看護師の問いかけに回答ができる,それができる程度の鎮静.
創に手を当てることも無く,顔をしかめることも無ければ.眉間に寄る皺も無い.
穏やかで,微笑みまで見える表情.ただ問いかけが終わると,次第に重くなる瞼.
吐き気も無いので,その眠気が邪魔されることもなし.
酸素は5Lで口の中はカラカラ.時間と共に空いてくるお腹.明日の朝が長く,遠い.
こんな状況でも,程良く鎮静を効かせること叶えば,空腹も口渇も,耐える必要は激減します.
自分自身が横たわっていることを想像してみて下さい.苦痛は限りなく・・・ゼロでなきゃダメですよね.やっぱり.
患者が術後楽ならば,それは適切な「鎮静」で苦痛の無い証左
患者が術後楽ならば,その表情を見るご家族に膨らまない不安
患者が術後楽ならば,深夜に鳴ることのないナースコール
患者が術後楽ならば,電話で主治医を起こさずに済む夜勤看護師
患者が術後楽ならば,深夜の電話無く,疲れを癒やすこと叶う主治医
結果,患者も,ご家族も,夜勤看護師も,主治医も,みなハッピー.
誰1人も欠けること無く,労苦は不要となる,そう考えて走ってきました.
2023年春に私はときわ会の一員となることを選択しました.
以来,中でも泌尿器科病棟に特化して仕事をしています.
なのでもし同じ想いで伴走して貰えるのなら,どれだけ心強く思えるでしょうか.
患者さんの安全,安心,特に安楽のための鎮静.
そこに理解を頂きたく,こんな長文を認め(したため)ました.
異論反論は熱烈歓迎,それは今後の考え方を強化するに不可欠なエナジー.
願わくばこの長文の読まれた後,皆さんから貴重な意見を頂ければとても嬉しく思います.
患者さんの為,意見交換を望みます.病棟で私を見かけたら.ぜひごご意見を.
さて
この度も最後までお読み頂きありがとうございます
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弘前大学に入学した私,
20歳前後の約9年間,方言「津軽弁」を聴きながら過ごした青森県弘前市.
現地でよく耳にする「はんかくせぇ」という表現.
その意味は,「どことなく間抜けな」「ばかみたいな」・・・
「はんかくせぃ はなし すな」津軽弁 =「ばかみたいな話をするな」標準語
なので私には何となく,イメージが良くないのです.(^_^;;;;;