遣る瀬無い事故,高齢の患者さんは歩けなくなる? 眠られなくなる?

医療

【 助さん拡散希望 ~全国編~ 】

なんとなくスッキリしない,モヤモヤ感の遺る和解かも.
そう感じてしまうニュース.

それがこの報道.

宮市立市民病院で男性が骨折で歩行不能に 病院が450万円支払い和解へ 愛知 CBC テレビより

イラスト:「いらすとや」より

私が勤務する公益財団法人 ときわ会 常磐病院では,医療安全管理部の活躍めざましく,普段からの情報発信の頻度と質は,おそらく他院の追随を許さないレベル,と常々感じています..

件の報道も,その医療安全管理部の報せを受け,知りました.

何よりもまず,
骨折されてしまった方およびご家族の方々には,心よりお見舞いを申し上げます.

さて,
一宮市の発表を合わせ読むと.

参照:令和6年2月20日報道発表 医療過誤に係る和解の成立について(お知らせ)

睡眠導入剤を内服されていた80歳の男性が,深夜2時半にトイレを求めたとの由.
その際,きちんと看護師が付き添い支えたけれど,転倒.
骨折の重傷となり,手術・リハビリを経ても,その後の歩行が不能になったのだと.

その事故がようやく和解となり,市からの発表となったようです.

ここで私の心配
1.高齢者の歩く力が衰え,寝たきりの方が増えやしないか.
2.転倒の防止が最優先とされ,不眠症の方が増えやしないか.
3.市の判断.

では心配の1.高齢者の歩く力が衰え,寝たきりの方が増えやしないか.

一宮市の発表に拠れば,患者さんは不安定狭心症だったとか.
となれば,体重,喫煙歴.これらを私達医師は,当然確認します.
この点,発表では不明です.

仮にこの患者さんが
過体重   BMI = 25~30 あるいは
肥満    BMI = 30~35 もしくは
重度の肥満 BMI ≦ 35   だった場合
そして仮に寄り添った看護師が,女性だった場合.

よろけた患者さんを支えきれない事も当然あります
男性でも叶わなかったかもしれません.

 

BMI(BMI)= [体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値。 肥満や低体重(やせ)の判定などに用いられる。 体格を表す指標として国際的に用いられている指数で、[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で求められます(身長はcmではなくmで計算します)。
出典;厚労省:e-ヘルスネット

 

『なおさら車椅子を使用すべきでは?』

歩けると判断したら,歩いて頂くのが普通と思うのです.
でなければ,退院を考えた上で睡眠導入剤は処方出来なくなります.

また喫煙歴.あったのか無かったのか.
仮に喫煙歴があったとしたら,狭心症はある意味必然.入院も必然.
となれば80歳ですもの,足腰も弱くなりますよね.

そして転倒防止が最優先となった際には・・・
少しでもよろける可能性の有る患者さんは・・・

「全て車椅子!」

イラスト:「いらすとや」より

こうして歩くことが減少した高齢者の方々は,さらに歩行能力が減退
その先に見えてくるのは寝たきり,です.

イラスト:「いらすとや」より

次に心配の2.転倒の防止が最優先とされ,不眠症の方が増えやしないか.

『睡眠導入剤を飲んでふらついていたから車椅子?』

多くの高齢者の方々が不眠を訴え,睡眠導入剤を常用しています.

となると相当大勢の方々が1度ふらつくと,自宅での車椅子,となりかねません.
しかも深夜の尿意.若い人だって寝起きでの動きはパッとしません.
ましてや高齢者.しっかりとした足取りの期待は困難と思われます..

また睡眠導入剤ですから,実はそう長くは効きません..
だって「導入剤」ですもの.寝付きを良くするだけのお薬.
仮に21時に内服したとして,2時半だとおよそ5時間半後.
血液中の濃度,その半減期はたいてい4時間程度.
クスリの効果はかなり減少していた時間帯です.
最近の睡眠導入剤.深夜のトイレも計算に入れて処方しますから.

けれど転倒事故に際し,このような和解がされると,もうおいそれとは処方出来なくなります.
やはり手控えたくなります.

となれば,高齢者の方々の眠りたいという願い.
叶えることがとても困難となります.

最後は心配の3.市の判断.

さて市はこれらの事まで勘案し,検討されたのでしょうか.

もちろん,様々な視点で,深く検討されたとは思います.

なれど私はこれらの点を強く,強く危惧します.

市は,当然の様にこの事故の解決を探ります.
しかしながら,それはこの事故に関してだけの短期的な決着.
中長期的な視野にはなかなか立てません.

これは毎度繰り返される,残念な結果,そう感じてなりません.
なぜならば,その後の臨床医療に多大な影響を及ぼすためです.

厚生労働省はサルコペニアの予防に積極的です.

サルコペニアとは:ギリシャ語の「筋肉」を表す“サルコ”と、「喪失」を表す“ペニア” を組み合わせた言葉で、筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下して いる状態のことをいいます。 転倒・骨折、寝たきりなどの原因にもなる ため、十分な栄養の摂取や、体力維持・筋力増加のための運動により、 サルコペニアを予防することが重要です。
(引用:東京医科歯科大学 医学部附属病院 臨床栄養部より)

寝たきり状態を防ぎ,健康寿命を延長を目指す厚生労働省
にもかかわらず,市の判断がさらなる寝たきり症候群の原因に.
そうなりかねないのです.

さすれば,我々臨床に携わる者はどう対応すれば良いのか.
今回の和解は混迷する医療行政を,さらに複雑化させてしまうばかり.
と感じてしまうのは,私だけでしょうか.

まだまだ歩ける患者さん,これからは車椅子をお願いするほかありません.
その結果・・・歩けなくなり.さらに寝たきりとなり,さらには不眠となる.

ゴメンナサイ.

普段の医療は,医学的理由のみならず,このような社会的理由でも変化します.
いえ変化させられます.

良い方向であれば喜んで受け入れます.なれど・・・ご容赦下さい.

一方で,このような事故が起きぬよう,我々も不断の努力を惜しみません

どうかご理解をお願いいたします.

 

以上,この度も最後までお読み頂き心より感謝いたします.ぜひご意見や感想を文字化しお送り下さい.私にとってはこの上ない喜びとなり,またブログを書く上での熱源となります.期待しお待ちしております.

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